受験者数は高止まり、背景に大学入試改革

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【中学受験2025】受験者数は高止まり、背景に大学入試改革の影響か…首都圏模試センター

 受験率が過去最高だった昨年度を振り返りつつ、見えてきた「2025年度の中学入試」とは。幅広い偏差値帯の小5、6年生を対象に行われる「合判模試」を主宰する首都圏模試センターで教育研究所長を務める北一成氏に、2025年度入試における志願傾向や注目すべきトピック、人気校の動向などについて詳しく聞いた。



2024年度に引き続き受験率は上昇か

--中学入試全般の概要について。昨年(2024年度)の状況を振り返りつつ、現況をどのように見ているかお聞かせください。



 2023年度は受験者数がピークに、2024年度入試では少し減少したものの過去40年で2番目に多い受験者数となっています。内訳をみると、最難関校や御三家などのトップ校の受験者数は横ばいか微減の一方、中堅校やそれ以下の学校では受験者が増加、特に男子校の受験競争が激化しています。



 2025年度の入試についても、受験者数としては減るだろうと私どもは予想していますが、4月と7月に実施した合判模試では受験生数に増加がみられます。子供の数が減っている以上に、小学生の保護者のあいだでの中学受験熱は非常に高いまま続いていると言えるでしょう。



--中堅校の受験層が増加している背景にはどんな要因が考えられますか。



 現在の小学生の保護者層は、より若い世代となり大学入試の改革にも敏感になっています。新課程に基づいた共通テストにおける「英語力」や「思考力」の重視といったキーワードについても、すでに広く伝わっていることでしょう。



 大学入試は現在、文部科学省が2020年から段階的に導入した新しい学習指導要領を前提に、さらに改革がすすめられています。私立中学校はいずれの学校も、時代のニーズに合わせて独自の教育プログラムをブラッシュアップし、より良い教育環境を提供しようと努力しています。その結果、特に中堅校に対して、より多くの保護者からの評価向上に繋がっているかのかもしれません。



 保護者もまた、偏差値や進学実績だけではなく、我が子にとってどのような学校がもっとも適しているかをより深く考える傾向が強まっています。グローバル教育やSTEAM教育に力を入れている学校に注目が集まる背景には、保護者自身が社会で経験してきた変化や、新しい時代に必要なスキルへの気づきが大きく影響していると考えられます。



 加えて、ここ数年はコロナ禍での学校説明会の実施が難しかったことから、私立中学はSNSやホームページでの情報発信に力を入れるようになりました。これにより、保護者や受験生が学校の内情をより深く理解し、フィーリングに合った学校を選びやすくなったという点も大きいでしょう。



 特に女子校では、情報発信が積極的な学校と人気が上昇した学校がほぼ一致しているという現象が見られます。たとえば、湘南白百合学園のWebサイトでは、生徒の後ろ姿や海沿いの美しいロケーションを生かした写真を効果的に使用し、学校の魅力を伝えています。従来の「広報活動があまり熱心ではない」というミッションスクールのイメージを、こうしたカトリック系の学校が覆し、積極的に情報発信を行うようになったこともあってか、神奈川の女子校ではミッションスクールの志願者が増加しています。従来から教育の質には定評があったものの具体的な学校生活があまり知られていなかった学校に対して、保護者や生徒の興味が高まったことを示していると言えるでしょう。



--受験生にとって、より学校の教育内容が見えやすくなってきたということですね。



 学校がSNSやオンラインプラットフォームを活用して、日常的な学校生活のようすを紹介することも増えてきました。以前は、生徒の安全面から写真の公開を控えるケースも多かったのですが、最近では保護者や生徒の同意を得たうえで学校生活の一部を発信する工夫がなされています。学校説明会やオープンスクール等で学校生活やクラブ活動などについて紹介するといったような、在校生が積極的に手伝う機会も増えています。受験生にとっては、在校生と触れ合うことでその学校がより身近に感じられるでしょうし、こういった取組みを積極的に行っている学校に人気が集まるのは納得です。



共学志向から男女別学へと人気がシフト

--来年の入試動向について教えてください。人気校に変化はみられそうでしょうか。



 2025年度入試の人気動向については、ほぼ2024年度の入試状況をそのまま受け継ぎそうな印象です。2024年度は、都内の男子では佼成学園や足立学園、女子では普連土学園や三輪田学園が多くの受験者を集めましたが、今年度実施の合判模試の志望者動向を見ると、ほとんど同じような学校に志望者が集まっています。



--2024年度の傾向として、上位層では共学校志向が強まっている一方で、偏差値が中間層の学校では別学志向が高まっているという指摘もありました。



 ここ3~4年で、渋谷学園や渋谷幕張、広尾学園といった、先進的な教育を標榜する学校に引っ張られる形で、共学校や共学の大学付属校が人気を集めていました。一方で、一昨年くらいから男子校や女子校でも、グローバル教育やサイエンス教育に力を入れる学校が増え、SNSなどを通じた情報発信が強化されてきたことが別学の人気復活に寄与しているとも考えられます。



 入試回数や定員の配分が共学校と別学では異なることも、別学の人気を支える一因となっています。共学校では、男女別に定員が設定されているため入試回数が多く、1回の試験での合格者枠が狭くなる傾向があります。それに対して、男子校や女子校では1回の試験での合格者枠が比較的広いため、やはり受験生の選択肢として魅力的に映るのではないでしょうか。



 また、部活動の環境も別学の学校がもつ強みのひとつです。共学校では男女でグラウンドなど練習場所の取り合いが発生しますが、別学ではそういったことがないぶん、よりスポーツ系の部活動が盛んに行われやすいという点もポイントとなっています。女子校については、コロナ禍といった非常時において、オンラインのツールを用いた生徒とのコミュニケーションやメンタルケアを行うなど、生徒ひとりひとりに寄り添う対応を取ったことも、年頃の子供をもつ保護者の信頼獲得に寄与したのではないかと思われます。



--1月入試の傾向についてもお聞かせください。コロナ禍中の受験時には、2月1日を見据えて千葉入試を回避するなど、遠方への受験を避けるといった動きもありました。



 2024年度の動向から見るに、前受けとして1月入試を受けるのは当たり前という流れに戻っています。また、ここ数年で埼玉県や千葉県の学校では先進的な教育に取り組む学校が増えてきました。



 埼玉県の栄東や開智などは、早くから探究学習やアクティブラーニングを導入し、時代に即した教育を実践しています。千葉県はやや遅れている印象がありましたが、最近は渋谷幕張に続き、他の学校でもグローバル教育に力を入れる動きが強まっています。千葉県では、中間層の選択肢がやや限られるという現状がありますが、国府台女子や和洋国府台といった女子校が人気を集めているのも興味深い点です。



女子難関校が算数・英語入試を導入、大学との教育連携の強化

--新たに設定された試験回や試験科目の変更など、今年度注目のトピックスについて教えて下さい。



 最近の入試改革や学校の動きの中で、象徴的なものをいくつかあげます。まず、豊島岡女子学園が導入した算数1科目入試と、英語資格による加点制度は大きな注目を集めています。特に、算数1科目で200点満点の試験に対し、英検準1級で100点の加点がつくというのは、かなり大きなポイントです。豊島岡のような難関校でこのような入試を導入する背景には、女子受験生の間で算数や英語に自信のある生徒をさらに引き込みたいという意図があるでしょう。こういった取組みは今後、他の難関校にも影響を与える可能性があります。



 次に注目されるのは、日本女子大学附属や光塩女子学院といった伝統校の算数1科目入試の導入です。この流れもここ数年で進んでおり、女子校全体で理数に特化した入試形態が増加しているといえるでしょう。



 このほか、芝浦工業大学附属や東京農大などでも、新たな科目選択による入試改革が進行中です。特に芝浦工業大学附属では社会を省いた三科目入試や言語・探究入試が行われるなど、受験生の特定の得意分野にフォーカスした入試も増えています。試験科目や試験方式の多様化が進み、従来の4科目受験にこだわらない新たな選択肢も広がっています。



--大学との教育連携を強化している学校も増えています。注目校はありますか。



 順天堂大学が今回、初めて系属校協定を結んだのが宝仙学園です。医学部への内部進学を目指す生徒に特化した入試形態が導入され、算数・理科・作文といった科目での「医学進学入試」が新設されました。これにより、医学部志望の学生がより明確な目標をもって中学・高校の段階から準備できるようになっています。順天中学校・高等学校も北里大学法人との合併を行い、さらに医学部への内部進学のルートが整備されることになりました。順天はこれまでもグローバル教育に力を入れてきましたが、医学分野との連携を強化することで、進学の多様性を一層広げるねらいがあるのでしょう。



 ほかにも、法政大学が山脇学園および工学院大学附属とそれぞれ高大連携に関する協定を締結するなど、近頃は教育連携のニュースが数多く飛び込んできます。教育機関同士の連携や入試の多様化は、今の時代に合った新しい進学の形を提供しており、受験生や保護者がこれらの動向をしっかりと把握することがますます重要になっていくと思います。どんな学校に推薦枠をもっているかというのは、学校選びのポイントにもなっていくと保護者会でもお話ししています。



依然として多いSDGs関連の出題

--昨年度の入試問題で見られた傾向についてと、今年度考えられる出題についてお聞かせください。



 ここ数年の入試問題の傾向として、SDGsに関連する出題が増加している点が注目されています。特に公立一貫校では適性検査でSDGsに絡んだ問題が多く出題されており、私立校でも同様の動きが見られます。



 SDGsのテーマは地球規模の問題を扱うため、特定の科目にとどまらず取りあげられるようになってきました。特に環境問題やジェンダー平等といった時代に即したテーマは、麻布や開成などの難関男子校でも題材として取りあげられています。現在の小学生が大学や大学院を卒業するころにSDGsの達成目標年である2030年を迎えることから、「地球環境や社会の問題を解決するのは自分たち」という意識付けが入試問題にも反映されています。



 さらに、最近の入試では、正解がひとつではない出題が増えています。たとえば、ふたつの異なる立場に立って意見を述べる形式や、個々の考えを論理的に表現する問題が私立校の入試でも出題されています。これは適性検査のスタイルが私立校にも浸透してきている証拠です。こうした問題は、思考力や表現力を重視する大学入試とも一致しており、生徒たちに求められるスキルの変化を象徴しています。



公立一貫校と私立の併願が当たり前に

--公立の中高一貫校の動向についてはいかがでしょうか。



 全体でみると、公立一貫校の志願者数は減少が見られます。これにはいくつかの理由が考えられますが、多くの受験生や保護者に、「簡単には入れない」という現実が認知されてきたこともあるのかもしれません。公立一貫校は適性検査対策が必要ですが、それに特化した塾やコースは少なく、個別等に通うとなると私立中学の入試以上に費用がかかってしまうという金銭面のハードルもあるでしょう。



 また、公立一貫校の進学実績についても期待ほど高くないと感じる保護者が増えてきているのも、公立志望者が減少する一因です。公立一貫校は2005年の都立白鷗を皮切りに次々と設立され、当初は非常に高い期待を寄せられていました。しかし、実際には東大などのトップ大学への進学実績がそれほど突出していない学校も多く、その点に対して冷静な見方が広がってきています。



 一方で、私立中学に対する就学支援金や特待生制度が充実してきたこともあって、公立一貫校を第一志望にしつつも私立中学も視野に入れる家庭は確実に増えています。特に都心部では、公立一貫校と私立中学を2~3校併願する生徒も多く、併願すること自体が一般化してきています。宝仙学園や安田学園のように適性検査型の入試を実施する学校もあり、公立と私立の両方を視野に入れる受験生からの人気を集めています。



偏差値だけではない、マッチングを目指す受験へ

--最後になりますが、受験までラストスパートを迎える受験生とその親御さんにアドバイスをお願いいたします。



 2023年から2024年の中学受験シーズンは、メディアの注目が一段と高まった年でした。特に、ドラマやニュース番組でも中学受験をテーマに取りあげ、多くの取材が入ったことが受験ブームをさらに加速させたともいえます。これ自体は中学受験に関する社会的な理解を深める良い機会となっていますが、その反面、保護者や受験生がメディアやSNSの情報に過剰に反応してしまうという課題も浮き彫りになりました。



 SNSや保護者同士の交流がリアルタイムで情報を広げる一方で、誤った情報の流布や、他人の成功に対する焦りを感じやすい環境も生まれています。SNSがなかった時代には、情報源が限定されていたため、こうした混乱や不安が広がることは少なかったのに対し、今は瞬時に情報が伝わり、不必要なプレッシャーを感じてしまうことも増えているようです。



 気になることがあったら、まずは信頼できる塾の先生や専門家に相談すること。受験期はSNSなどの情報から距離を置き、必要以上に情報に振り回されず、冷静な判断をするよう心得てください。



 中学受験は成績競争ではなく、どの学校が子供の将来の可能性を最大限引き出してくれるかを考える、マッチングを目指す受験へと変わってきています。もっとも大切なのは、1年後にお子さんが学校に慣れて楽しく通っている姿を見ることです。無理をせず、お子さんの状態に合わせて取組みながら、成績が伸び悩んでいるときはリフレッシュさせることも必要です。入試のバリエーションもチャンスも増えているので、多様な選択肢の中から、お子さんの特性や個性を伸ばせる学校や、強みを生かせる入試を探していただけたらと思います。



 また、たとえ第1希望に合格できなかったとしても、それを失敗ととらえないこと。受験を通じた成長や努力に目を向けて、「受験をして良かった」と振り返ることができれば、何よりの成功ではないでしょうか。大学生になったとき、あるいは将来的に自分の子供に受験を経験させる際に、「あのときは大変だったけど、受験を通して成長したな」と笑顔で振り返ることができるような経験にしてほしいと心から思います。



--ありがとうございました。





 「受験というのは最終的にはその過程や経験が本人にとって実りあるものであり、親子で“やってよかった”と思えることが一番大切です。受験の先にある成長を楽しみにしてください」と、受験生親子に向けて温かなエールをいただいた。もちろん第1希望に合格すれば嬉しいに違いないが、そこに固執せず柔軟な視点をもつことが大切だと改めて伝えたい。

吉野清美

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