*TOP画像/歌麿(染谷将太) 蔦重(横浜流星) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」43話(11月9日放送)より(C)NHK 吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第43話が11月9日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。美人画に隠された歌麿の恋心身近で大切な人に一方的な恋心を抱くと、そしてそれが叶わない思いであればなおのこと、苦しくもどかしい気持ちになります。思いが叶わない人のそばにいて、その人が笑う顔や、自分以外の誰かとの会話を楽しむ姿を見るのは心にこたえるものです。歌麿(染谷将太)は、蔦重(横浜流星)への甘く切ない思いを胸に秘めており、口に出してもどうにもならないと分かっています。てい(橋本愛)と蔦重の結婚や二人が授かった命、蔦重が多くの絵師たちから好かれていることを心から喜びたいのに、胸は締め付けられるように苦しく、気持ちは沈むばかり。歌麿は蔦重の弟であり、生まれてくる子どもの叔父というポジションにも、“当代一の絵師”という夢を託されていることにも心から感謝しているはずです。それでも、蔦重に抱く恋心のような思いのせいで、どこか拭いきれぬ寂しさが胸に募ります。歌麿から恋心を描いた絵を渡され、「俺が 恋をしてたからさ」と言われた蔦重は、「お前 おきよさんみたいな人 見つけたのか!」と喜びます。そして、兄が弟を喜々として茶化すように「(好きな人は)こん中にいんのか?」と尋ねていました。蔦重(横浜流星) 歌麿の絵 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」43話(11月9日放送)より(C)NHK蔦重(横浜流星) 歌麿(染谷将太) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」43話(11月9日放送)より(C)NHK兄が弟に大切な人ができて、新たな一歩を踏みだして欲しいと願うのはごく普通の感情でしょう。しかし、蔦重に恋心を抱く歌麿は、蔦重が自分に女ができたと喜ぶ姿に複雑な感情を抱きます。蔦重は自分のために尽くしてくれるけれども、歌麿が本当に求めるのは自分への特別な思いだから…。きよ(藤間爽子)が歌麿に“自分だけを見てほしい”と強く願っていたように、歌麿もまた、蔦重に同じ思いを抱いているのかもしれません。ていのことも、生まれてくる赤ん坊のことも大切だし、蔦重お抱えの他の絵師たちも尊敬はするが恨みはないのに、彼らから頼られ、愛される蔦重を見ているとモヤモヤする苦しさ。そうした思いから逃れるには、自分が蔦重から距離を置くしか方法がないと、歌麿は考えたのでしょう。歌麿の絵を見たていと みの吉(中川翼)は、蔦重から「歌麿が恋心を描いた」と聞き、歌麿の内なる思いを察したようでした。もしかすると、歌麿の蔦重への思いを絵を通じて感じ取ったのかもしれません。一方、蔦重の母・つよ(高岡早紀)が歌麿に語ったように、蔦重は恋心に鈍感なため、歌麿の心に気づいていません。過去に瀬川(小芝風花)の心に気づかず彼女を傷つけたのと同様、今は歌麿を傷つけています。蔦重も所詮一人の人間にすぎず、ビジネスの才覚はあれど恋心には疎い。神のごとく何もかもを汲み取れる完璧な人間などいない……そんなことを示しているようにも思います。人生は期待を裏切るもの蔦重とていの子どもていのお産が予定より早く始まり、胎児が外に出ようとしています。しかし、子はまだ外の世界で生きられるほど育っておらず、このままでは母子ともに危険な状態です。蔦重(横浜流星) てい(橋本愛) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」43話(11月9日放送)より(C)NHK「この子を…旦那様に差し上げたいのです…。子を育てる喜びを…旦那様に…。」お産の痛みに耐え、額に汗を浮かべながら、蔦重に子を授けたいと訴えるていの姿には、妻として、母としての強い覚悟が感じられました。愛する蔦重に“子を育てる喜びを授けたい”というていの思い――自らの手で数々のものを掴み取ってきた蔦重ですが、蔦重に我が子を授けられるのは神様とていだけです。しかし、現実は残酷なもの。画面に映し出されたのは赤ん坊を抱く蔦重ではなく、少し前の歌麿のように無精髭を生やし、悲しみを滲ませる蔦重でした。彼のこの姿から子どもの死を連想せざるを得ません。ていについては次週の予告映像で姿が確認されたようにも思うので、命を取り留めたと信じたいところです…。罠にはまった定信その頃、定信(井上祐貴)は自分を頼ってくれる若き徳川家斉(城桧吏)に今後も助言を与えられるよう、将軍補佐と老中を辞し、大老になることを決めました。定信(井上祐貴) 家斉(城桧吏) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」43話(11月9日放送)より(C)NHK田安家にとって将軍を出すことは長年の悲願であり、田沼意次(渡辺謙)に幼少期から苦渋を味わわされてきた定信にとっても、将軍ではないものの国の舵取りを任されることは、ようやく努力が報われる瞬間となるはずでした。「ここはひとつ 将軍になったつもりで 事に当たろうと思っておる」と水野為長(園田祥太)に覚悟を語ったその眼差しは、未来を見据え、前途洋々に満ちていました。されど、期待は期待通りにならないことの方が多いもの。家斉も彼の周囲も定信を出世させる気がないだけでなく、彼を自ら辞職させようと企んでいたのです。定信は将軍補佐と老中の役目を自ら辞職するかたちとなりました。家斉の「政に関わらず ゆるりと休むがよい」との言葉が定信の心に重く響きました。下城を急かされ、廊下にまで響く嘲笑の声が、彼の心を一層深く傷つけます。定信(井上祐貴) 家斉(城桧吏) 家臣 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」43話(11月9日放送)より(C)NHK定信が一人部屋の中で涙を流す姿には憎しみ、恨み、怒り、悲しみなどさまざまな感情が滲み出ていました。「地獄へ落ちるがよい」という言葉にも察せるよう、自分を裏切った者たちに並々ならぬ憎悪を抱いています。定信(井上祐貴) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」43話(11月9日放送)より(C)NHK深い悲しみと絶望を味わった定信ですが、史実では老中の職を退いた後は白河藩の藩政に専念し、息子に家督を譲るまで藩を堅実に治めたといわれています。定信は質素倹約を提唱し、江戸っ子たちを締め付け、市井の人たちからも反感を買っていました。しかし、彼は民が憎いから、あるいは己の利益のために厳しく取り締まったわけではなく、泰平の世を、ひいては民の幸せを意次同様に願っていました。人間には自分を律し、倹約の心を持つことも大切ですが、緩めるところは緩めて人生を謳歌することも重要だと、定信を通じて改めて思いました。加えて、人びとの贅沢な消費は経済の循環に不可欠であり、お金を積極的に使う人によって経済が支えられ、救われる人びとがいることも忘れてはなりません。本編では、蔦重と歌麿、そしてていの“命”をめぐる人間模様を描きました。▶▶「江戸の『人相見』ブームがすごかった!歌麿『婦人相学十躰』に隠された占い騒動と“開運ビジネス”の真実」では、実際の江戸時代における人相学や占いブーム、そして歌麿が手掛けた「婦人相学十躰」の背景を詳しく解説します。
OTONA SALONE


